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2020/04/28

新型コロナウィルスの蔓延に関連する使用者の対応についてのQ&A(従業員の異動等に関して)

1 新型コロナウイルスにより,事業所の閉鎖や統合を実施したいのですが,それに伴う異動命令に応じない従業員がいる場合にはどのような対応が可能でしょうか。

A. 就業規則上,配転命令の根拠規定がある場合には,その規定に基づく命令が可能です。ただし,

① 業務上の必要性があること
② 不当な動機・目的がないこと
③ 労働者が通常甘受すべき程度を著しく超える不利益がないこと

といった事情を勘案して,権利濫用として配転命令が無効となる場合がありますので,その点の注意は必要です(いわゆる東亜ペイント事件(最判昭61.7.14・判時1198号149頁))。
まずは,個別の従業員に対して,ヒアリングを実施し,合理的理由無く配転命令に従わない場合には,最終的には懲戒解雇等を検討せざるを得ないでしょう。
また,整理解雇を行う場合には,次の2をご覧下さい。

2 新型コロナウィルスの蔓延の影響により,売上が著しく減少し,経営が悪化した場合,従業員の整理解雇はできますか?

A. まずは,雇用を維持するために,最大限努力をする必要があります。その際には,休業手当の支給と雇用調整助成金の受給,制度融資の利用等を検討すべきでしょう。それでも資金繰りが厳しく,雇用を維持することができないということであれば,

① 事業所廃止の経営判断の合理性(企業の合理的運営上やむを得ない必要があること(当該人数の削減の必要性が認められること))
② 解雇回避努力(企業の置かれた個別具体的状況の中で、解雇を回避するための真摯かつ合理的な経営上の努力を尽くすこと)
③ 人選の合理性(整理解雇の対象者を恣意的でない客観的・合理的基準で選定すること)
④ 手続の相当性(整理解雇をするにあたり、会社の状況(人員削減の必要性)、経緯(解雇回避努力)、人選基準等について従業員・労働組合に十分な説明をし、協議すること)

の4要件を検討して,その有効性が判断されることになります。一般論としては,まずは,整理解雇を検討する前に,金融機関からの融資,役員報酬の減額,賃料等の減額交渉,そして,3の賃金減額等を検討・実施することから考えます。これらの手を尽くしても,なお雇用の維持ができない場合に整理解雇を検討することになるでしょう。

 なお,賃料等の減額交渉に関しては,一定期間(例えば3か月間程度)の,10~30%の減額交渉であれば,会社の窮状を丁寧に説明することで,ある程度減額に応じてもらえているケースも報告されています。

3 新型コロナウイルスの蔓延の影響による業績の悪化で,雇用の維持が難しいのですが,賃金の一律減額はできますか?

A. 休業や欠勤等を理由としない給料の減額は,原則として,個別の従業員との自由な意思に基づく同意が必要です(いわゆる山梨県民信用組合事件(最判平28.2.19・),労働基準法9条)。

 ところで,就業規則において賃金規定がある場合には,個別の従業員の同意を得ることなく,賃金規定を変更することにより,賃金の引き下げをすることは可能です(労働契約法10条)。この場合,労働者の受ける不利益の程度,労働条件の変更の必要性,変更後の就業規則の内容の相当性,労働組合等との交渉の状況その他の就業規則の変更に係る事情に照らして合理的なものであることが必要となります。これらの要件は,それぞれ総合的に判断することになり,過去の裁判例から考えると,例えば,新型コロナウィルス等による業績悪化の程度や,経営陣の報酬の削減,従業員に対する十分かつ真摯な説明や意見の反映等があったかどうか,賃金減額の程度の大小や段階的減額の有無,他の手当の支給等の代償措置の有無を検討することになるでしょう。

4 新型コロナウィルスの蔓延による経営の悪化に伴い,採用内定の取り消しはできますか?

A. 採用内定は,始期付き解約権留保付きの労働契約であり,内定取消においても,客観的合理性及び社会的相当性が必要であると解されています。この点,「新型コロナウイルスに関するQ&A(企業の方向け)」(令和2年4月24日時点版)においても,「新卒の採用内定者について労働契約が成立したと認められる場合には、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない採用内定の取消は無効となります」とされています。新型コロナウィルスの蔓延による経営状況の悪化は,内定者には何らの落ち度がないのですから,2の整理解雇の4要件充足と同等程度の状況が必要と考えられます。原則としては,個別の同意を取るべきできでしょう。

 なお,内閣官房から経団連等になされた「新型コロナウイルス感染症への対応を踏まえた2020年度卒業・修了予定者等の就職・採用活動及び2019年度卒業・修了予定等の内定者への特段の配慮に関する要請について」(http://www.cas.go.jp/jp/seisaku/shushoku_katsudou_yousei/2020nendosotu/hairyo_yousei.html)によれば,

① 採用内定の取消しを防止するため、最大限の経営努力を行う等あらゆる手段を講じること
② やむを得ない事情により採用内定の取消し又は入職時期の繰り下げを行う場合には、対象者の就職先の確保について最大限の努力を行うとともに、対象者からの補償等の要求には誠意を持って対応すること

とされています。